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DATE: 2009/09/17(木)   CATEGORY: かもかてSS
かもかて二次創作SS8くらい【ヴァイル好愛35↑印愛35↓でユリリエ友情B】
今回は愛とか友とかです。すんごい冗長です。飛ばして読んでね。

二次創作はもしもかもかて、というわけでキャラ崩壊も辞さない覚悟で「諦めないヴァイル」にトライしてきました。
という訳でユ「あの子の想いは」→ヴ「湖上の約束」→ヴ「すれ違いの果てに」→ユ「最後の日」でユリリエ友情B、性別は女を選択、という流れです。
ヴァイル生殺し。ミーデロンとタナッセはただの友情出演。

話としてはどうということもない感じで、単にユリリエの「人が生きている限り、争いはなくなりませんわ。男と男の間に、女と女の間に、そして男と女の間に」という台詞にそれぞれ愛と命と名誉をくっつけただけの代物です。
命を賭けて御前試合という男同士の戦いに身を投じるノースタス、その裏ではレハ子とノーティの名誉を賭けた舞踏会キャットファイト。
「くっ……今のは効いたわ……やるわね貴女」
「フフフ、このパンチを食らって倒れなかったのは貴女が初めてよ」
疲弊しつつも何とか強敵ノーティを下したレハ子。
しかしその隙をついてレハ子の煮え切らない態度に反転憎悪寸前なヴァイルが策士の微笑で襲いかかる!勿論性的な意味合いで!
「俺、諦めないから」
男と女の間で、愛を賭けた最終決戦が、今、始まる……。


ヴァイルは愛ルートだと結婚するまでキス以上は無理です程度には潔癖な気がしたので今回はちゅっちゅまでになります。


ミーデロンが私のために作ってきたとかいう詩は、一生懸命に聞くとうっかり耳が腐ってしまいそうな出来だった。
ありがちな美辞麗句を並べれば修辞になると思っている類の無才な出来栄えは、タナッセが城を離れてさらにひどくなった。
仲は悪いと思っていたが、敵同士は敵同士なりに影響を与えあっていたということなのだろうか。
あまりの退屈さに飽いて、熱心に詩を朗誦しているミーデロンから彼の後ろにある鏡石へと目線を移すと、私の姿をした女が気怠げにこちらを見返していた。
我ながら今日の出で立ちはなかなか悪くない。
髪型にも目の色にも似合って、朝ユリリエに見立ててもらっただけのことはある。
ユリリエがここにいてくれればこの退屈さに楔打ってくれたかもしれないのに、と思うとつくづく残念でならないが、当のユリリエは御前試合の観戦に行ってしまってここにはいなかった。
私だって御前試合に出場……はもはや出来ないまでも観戦くらいはしたかったが、ユリリエと連れだって試合会場へと移動している最中にミーデロンに捕まってしまい、広間に連行されて今に至るというわけである。
男に話しかけられたらたとえ急いでいたとしても、時に互いを差し置いてでも、最上級の笑顔で応じてみせるのは、ユリリエと私との暗黙の了解だ。
……とはいえ、その内容を後で悪意混じりに報告し合うのも、当然不文律の約束なのだが。
正直なところ、私はこの詩人のことを憎くはない程度には思ってはいたが、タナッセの顔に免じて多少点数を甘く付けてやっても、ミーデロン渾身の詩は残念ながらユリリエへの報告行きのようだった。
詩さえ作らなければ上出来の恋人になれたかもしれないものを、詩人というのは罪なものだ。
目を細めてふ、と欠伸を噛み殺す。
退屈な付き合いなら仕方ない、本気の恋なら奇跡のよう、だが私にもユリリエにも今のところその辺り本気の恋は訪れていない。
詩が終わる頃を見計らって、可能な限りの愛嬌を込めた笑顔で、素晴らしい出来栄えだと褒め称えてやると、果たしてミーデロンはしたり顔で頷いた。
だがそこに浮かんでいるのは恋情ではなく単に己の詩才に対する過信に過ぎず、そのことが私をふと怜悧にした。
愛を囁くふりをして己の自尊心を満たすような、そういうやり方は頂けない。
私は立ち上がり、手を取って正面から相手を見つめた。
ごく近い距離から軽く首を傾げて覗き込めば、詩人の白い顔にさっと朱が差して、今日は先約があるからもう行かなければならないが、また聞かせてほしい、鼻にかかった声でそう言うと、ミーデロンは神妙な面持ちで頷いた。
恋の駆け引きは面白い。それが私の勝利に帰する限りは。





侍従をせきたてて訓練場へと急ぐと、果たしてユリリエは私の分の場所を確保して待っていてくれた。
まだ御前試合は終わってはいなかったらしい。
天幕の内へと踏み入ると、日陰になった涼しさと彼女の存在とが先ほどの妙な詩から私の気分を救ってくれる。
多少行儀悪くユリリエのすぐ傍に足を崩して座ると、ユリリエの方でも特にそれを咎めようとはせず、私達は互いにしなだれかかるようにして試合の方へと目を向けた。

「で、いかがでしたの?」

準決勝らしい、一つの試合に決着が付いて衛士が入れ替わる。
その隙にいそいそとそう尋ねてくるユリリエに、私が詩の内容を聞かせると、果たして表面上は優雅さを失わない、だが明らかに失笑と分かる笑みが返ってきた。

「まぁ、それは随分と……安心なさってくださいまし、レハト様はそんな言葉では納まりきらない魅力をお持ちですから。ただ言葉というものがレハト様に追いつかないだけですわ」

芯からそう思っているような優しさでユリリエが私の髪を撫でる。
いついかなる時でも貴族らしさを失わないユリリエの本心を、未だ私は計りかねることもあったが、今回は本物だろう。私は安心して、快さに身を任せた。

「詩人ならば愛を御存知かと思いましたけれど、なかなか難しいようですわね」

ふと残念そうに言ってみせるユリリエにまさか、と返して笑う。
繕うこともない心の上に、化粧と、豪奢な衣装と、潤滑油代わりの笑顔を纏えば、さぁどうだろう、近頃流行りの寵愛者、レハト公爵様の出来上がり。
額の選定印は黙っていても権力を好む貴族たちの思惑を引き寄せ、薄布の下の手と足とは言葉にせずとも恋の欠片を運んでくる。
だが実際のところ、真実の愛などあるのやらないのやら。
詩人でさえ持ってはいないのだから、ましてや誰か、ただの人が私にそれをもたらしてくれるとは思えなかった。
或いはどこにもないからこんなに探してしまうのかもしれない。
けだし探し物というものは、探しているうちはあんなにも心を占めているのに、いざ見つければたちまち興が失せてしまって、知らない間にまた失くしてしまう。
だがすぐに失くしてしまう玩具を愛などと呼ぶことはできない、というのがユリリエと私と一致した意見だった。
こうしてユリリエと一緒に、御前試合を眺めて過ごす方のは幸せだった。
次から次へと可憐な小鳥のように移ろう浮薄な恋心が色褪せても、友情は強く絆となって失せない。
めくるめく駆け引きと、あらゆる菓子と色とりどりの薄織物と、恋と、宝石と、囁き交わされる無邪気な悪意と、恥じらう嘘と、遠くから姫気取りで見守る剣の試合と、そして何よりユリリエと。
どこをかじってもふわふわと甘い、私の人生はそんなもので出来ていた。
儚く柔らかいそれを両手に掬って、誰も壊しに来ないよう抱きしめて、足を速めて、踊るように回り続ける。
二人なら寂しくなくて、幸せで、それでも見つからない探し物にどこか空疎なものを抱えて、いつか誰かがこの手を取って真実を教えてくれることを願っている。
ふと、太陽が雲に陰って天幕の中にちらりと影が兆し、裂帛の気合と共に打ち込まれる剣が盾を深く抉って激しい音を立てるのが聞こえた。
――勝負あり、勝者ノースタス!
判定役が勝者の名を大きく呼ばわり、幾百の声が混じり合った歓声が試合場に響いた。
最終戦を制して優勝者となったのは、かつてユリリエと儚い恋の夢を追いかけた衛士だった。
私とは顔見知り程度の仲でしかないが、何人いたかももう分からないようなユリリエの恋人たちの中では、比較的私の記憶に残っている存在なのもまた事実だった。
そう言えば、ノースタスとはあの後どうなった、と水を向けてやると、ユリリエは真意の見えない含み笑いで答えた。

「ノースタスですの? そうね……てっきり私と恋仲だと思っていたレハト様が女性を選択なさったことで、一時はまだ諦めがつかない様子でしたけれど、私と他の方が連れ立って歩いているところを見て愕然としておりましたわ。いい加減諦めれば宜しいのにね」

長身の衛士の姿はまだ眼下の試合場にあった。
敗者を助け起して固い握手を交わし、何事か話してからふと何かを探すように観客席を見渡し、控室へとは去らずに、王の紋章を付けたひときわ大きな天幕の方へと歩いてゆく。
誠実で、仕事振りも実直、恋人にするに何一つ不足のない男だと専らの評判であるのに、なぜかユリリエは彼とは破局の道を選んでしまった。
ノースタスは私が男性を選べばユリリエを諦めたのだろうか。
諦めたかもしれない。
ユリリエの幸福を願うあまりに、私と争おうともせずに消えたとしても、特に不思議はないような気がした。
御前試合で怪我も辞さずに激しく戦う衛士とて、恋の戦場では時に無力だ。
勝者を表彰する声が遠く聞こえる。
リリアノのものではない、まだ随分と若い男の声。この国の新しい指導者の声。
ここからでは姿を見ることはできないが、ヴァイルもまた、王になって成人前よりもずっと落ち着いたらしかった。
篭りの後しばらくしてから城で初めてヴァイルを見かけて、前よりずっと背が高くなったその姿に話しかけることが出来なかったのを思い出す。
年明け直前のあの事件は篭りの結果にこそ影響を及ぼさなかったようだったが、それでも彼の篭りを長引かせた元凶は私だった。
ノースタスとユリリエの恋が終わってしまったように、私とヴァイルの関係もまた、実を結ぶことも花を咲かせることもなく、互いに気持ちを伝えることさえない蕾のまま立ち枯れてゆくのだろう。その方がいい。

「過去の恋なんて今更どうでも構いません。それよりレハト様。来週は舞踏会ですわね」

私の感傷を断ち切るような、元恋人に対するそっけない態度に思わず相手を見返すと、長いまつげに彩られたユリリエの瞳に、わずかな揶揄が混じるのが分かった。
分かっているな、とでも言いたげなその表情に、もちろん分かっていると頷き返す。
出来る限り飾り立て、己の美を誇り、他の女達を睥睨して歩くのは楽しかった。
時には嘲笑を向けられることもあったが、いつもその中にはいくばくかの羨望が入り混じっていて、こちらが優越感の混じった微笑で返してやると、大概相手はは怯んでそそくさとどこかへ行ってしまう。
男達が見せる熱っぽい視線の中に今度こそ望んだ愛が手に入ると信じて、がらくたの内にもし宝石のように永遠の輝きを放つものがあったなら、私はそれを掴むためにいかなる犠牲をも惜しまないだろう。
侍従達が天幕を片づけるのを置いて、人々が三々五々鹿車へ向かおうとする中、私とユリリエも次の舞踏会に着ていく衣裳のことなど話しながら立ち上がった。
帰路は私たちのような観客で多少混雑していたが、急ぐ用があるでもない、高い声で怠惰に笑い交わしてゆっくりと歩く私達は目立っていたといえば、目立っていただろう。
気配に気づいてふと試合場の方を見やると、控室に帰る途中だったらしいノースタスが、ぼんやりと私達を、いや、ユリリエを眼で追っているのが見えた。
少し意地悪な気持ちになってユリリエを引き止め、ノースタスの方を示す。
相対する二人の視線が絡まって、一瞬、ユリリエの眉が神経質にひそめられた。
だが次の瞬間にはすでにユリリエはいつもの花のような笑顔に戻って相手に一礼してみせた。

「お久しぶりです、ノースタス。まずは優勝おめでとうございます、と言わなければなりませんわね」

ノースタスの方でも、ユリリエを探していたという訳ではなく、単にたまたま見かけてしまっただけらしい、かなり動揺したように立ち尽くしている。
おそらく、ろくなことにはならないだろう。
私はそのままノースタスに会釈すると、ユリリエを置いて試合会場を後にした。
出来ることならばもう少しこの怪しい雲行きを眺めていたかったが、それが私とユリリエの間に横たわる不文律なのだから、どうしようもない。






侍従がやけに色とりどりの紙束を持ってきたので、思わずそんなもの後にしてくれと叱りつけてしまった。
言ってから後悔し、慰めるか謝るかしようと思った時には、もう侍従はいなくなっていた。
仕方なく鏡石を覗き込むと、やけに丁寧に化粧された自分の顔があり、大して美しい顔でもないのに毎度毎度上手く繕うものだと感心させられる。

「いつも下ろしていらっしゃいますから、今日は上げてみましょうか」

化粧を終えて今度は髪をいじっていた衣裳係がそう言って、私の承諾を待たずに額に手を滑らせて前髪を持ち上げ、頭の上で止めた。
他意がないことなど分かっていても、どれだけ繕ったとて結局映えるのは額の選定印なのだと思われているような気がして、私はまた額を乱雑に隠した。
衣裳係が不満げな声を上げる。
だがこれがあるから、婚姻の申し込みは引きも切らずに私を悩ませるのだ。
そうやって偽りの式で私を計算しているうちは、解などあるはずはないのに。
あるいはヴァイルに頼めば差し止めてもらえるのかもしれないという考えが頭をよぎったが、今は会いたくなかった。
人と人の間に、愛なんて、最初からないのかもしれない。




まぁレハト様よ。ますますお綺麗になられて。
ヴァイル様といい、成人して本当に見違えましたね。レハト様が城においでになった頃はあんな田舎くさい子供が……と思っていたものでしたが。
ああ、本当に……ヴァイル様も篭り前に毒など受けられたそうで、一時はどうなられることかと心配したものだが……しかし結局誰の仕業かは分からずじまいか。
そもそも、狙われていたのはレハト様だそうですからね。それをヴァイル様が庇って代わりに傷を受けられたと。
まぁ、愛ですわ! 愛ですわね!
ふん、その割にレハト様の方は成人なされてからもヨアマキスの浮かれ女なぞとつるんで男遊びか、大方命を救われた恩などすっかり忘れたと見える。ヴァイル様もヴァイル様だ、あのような者のために寵愛者たる御身の命を賭けるなど……。
……いくら愛は無償のものといっても、流石にヴァイル様も後悔なさっていらっしゃるかもしれませんね。
後悔するくらいなら最初から愛しませんわ。それが愛ですもの。
ははっ、どうだか……しかし冠争いはヴァイル様に分があっても、恋の方はレハト様の方が一枚上手だったようだな……。
ヴァイル様ももう少し強く信じていただければ、ご自身を見つめる愛を見つけることができましょうものを。上手くいかないものですわね。
テリジェの令息のことですか。あれもまたつきまとうばかりで中々難しそうではありますね……。
いいえ、違いますわ、レハト様のお話。




何度出ても、舞踏会は私の心を高揚させる。
ユリリエが見せる悪戯っぽい微笑もまた、彼女が私と心境を同じくしてくれていることの証左なのに違いない。
光が瞬く。さんざめく笑い声が泡のような熱量となって広い会場を上ってゆく。
手の届かない位置で輝く水晶に上から照らされて、海の底にもし行けたら、そこはこんな感じなのではないかとも思う。
幻想と現実の間で揺れ動く人波に、ちらりと誰かを見かけたが、それがタナッセだったので私はがっかりして傍のユリリエをつついた。

「あら、あのお馬鹿さんたら、ディットンに行ったはずですのにまたのうのうと顔を出して。ちょっとからかってやりましょうか」

くすくすと笑いながらユリリエが私をつつき返す。
ほんの時折見せる子供のような仕草がユリリエをより一層魅力的に見せるのを私は眩しげに見やった。
タナッセとは知らぬ仲ではないのだし、見かけたのならからかうとまではいかなくても、挨拶くらいしておくべきだろう。
ユリリエに一も二もなく同意すると、いそいそと私達はタナッセに近寄った。
こちらに気づいたタナッセはびくりと肩を震わせ、傍目にもわかるほど焦燥した様子だったが、何か言いだすより先にユリリエが機先を制した。

「お久しぶりですわね、タナッセ」

「……ユリリエ……レハトもか。相変わらず二人でつるんでふらふらと浮草暮らしのようだな」

流石に場が場なので逃げることも怯えることも出来ないらしい、表面だけは普段通りの虚勢を取り繕ってタナッセが言った。

「ええそうですわ。浮草も二本絡めば沈まない筏になりますのよ」

「……そうやってせいぜい水面の上を頼りなく回っているがいい。いつまで回れるかここから見ていてやる」

「あら、今日は回るために来たのですもの。タナッセ、貴方もダンスの一つくらいできなくてはね? 私が貴方の空っぽな頭にダンスの何たるかを詰めて差し上げますわ」

全く動じていないユリリエがにっこりと笑ってタナッセの腕に自らの腕を絡ませた。
言葉尻を捉えられ、自らの失言を知ったタナッセの顔色が暗くなる。
ユリリエに誘われるなど、他の男ならにやけた顔で大喜びするところであるのに、タナッセは随分と贅沢だ。

「い、いや私は、今日はそんなつもりで来たのではない」

「まぁまぁよろしくてよ? 私が導いて差し上げますから」

タナッセはなおも抗弁していたが、ユリリエに何かを囁かれると蛇に射すくめられた蛙のように情けない顔になり、そのままユリリエに引きずられていった。
何を言われたのか私には見当もつかないが、タナッセのことだ、喋られると困る弱みなどいくらでもあるに違いない。
そこまで考えて興味を失くし、私はそれ以上を考える代わりに辺りを見回した。
私もせっかくだから誰かいい人と踊ろう。
ユリリエが後で悔しがるような、ちょっと目を引く相手ならなおさらいい。
辺りをざっと見渡すと、後姿ではあったが背筋の伸びた細身の人影が目を引いた。
他の貴族たちと歓談中らしいが、別に誘っても構わないだろう。
だがわざと足音を立て自分の存在を誇示しながら二、三歩歩み寄ったところで相手が振り返り、私はそれがヴァイルであることに気づいた。
城の衣裳係達が余程丹精したと見えて、常になく着飾っているせいでそうと分からなかったのだ。
己の愚かさに内心歯噛みしながらも、表面だけは笑顔で久闊を叙す。

「えっと、久し振り……だよね」

そこに私がいるのが意外だとでも言わんばかりの口調でヴァイルが言った。
この城にずっといるというのは、ヴァイルが望み、私が約束したことであるはずなのに、どこに驚くことがあるのだろう。
興を殺がれて黙っていると、ヴァイルは自分の反応が不躾だったことを悟ったのか、それを誤魔化すかのように慌ててあらぬ方角を指し示した。

「そう、その、勿論レハトがいいならでいいんだけど。何か久しぶりだし、俺と一曲……とか」

「ヴァイル様、やっと見つけました!」

咄嗟に私が断ろうとしたその時、突然横から手が伸びてきて、それは私を無視してヴァイルの腕をしっかりと捕まえた。
はっとして前を見ると、以前城で二、三度見かけた、確かミーデロンの弟だとかいう若い娘が不敵にこちらを見返しているのが目に入る。

「ね、ヴァイル様、ノーティと踊って下さいますよね?」

周囲の視線がノーティとヴァイルへと突き刺さった。
ノーティを見るヴァイルの眼差しには明白に不愉快の色が滲んでいたが、周りにも聞こえるほどの大声でそんなことを言われては、さすがに断れるはずはなかったのだろう。

「……あの、また後で」

しばらく私とノーティとを見比べていたが、私が何も言わないのを見てやがて諦めたらしい、儀礼的に会釈すると、ノーティと腕を組んでゆっくりと踊りの場へ去ってゆく。
勝ち誇ったようにちらりとノーティが私を振り返った。
侮辱されたことに、足が震えた。
動揺を鎮めるために衣装の裾を握りしめるのさえ、敗北感を助長しているような気がして、そのことにさらに苛立ってしまう。
背後から追い立てるように音楽が鳴り出し、途端にそれまで大人しく立っていた色とりどりの衣装が、裾を翻してそれぞれに回り始めた。
色と光とが煌めき巡る。
吐息が絡むほどの距離で見つめあう男女の足捌きは、礼儀作法に則って動いているにもかかわらずどこか官能的で、それを囲んで法悦にも似た陶酔が喧噪に乗って揺らぎ、絡み合ってゆく。
その中にいるであろうヴァイルを見たくなくて私は後ろを向いた。
ヴァイルは子供のころから決して下手ではないにもかかわらず、なぜか踊りたがらなかったことがふと思い出される。
自分から私を誘った手前、ノーティを断ることができなかったのだろう。
そう思うと、針で刺されたように胸が痛んだ。
ダンスに誘われるなどごく当たり前のことだ、なのにヴァイルに身を委ねることを考えると、なぜだか途中で思考が止まってその先が考えられなくなる。
手を取って触れ合って見つめ合って抱き合って、何でもない、今まで何人の男と気負うこともなくそうしてきただろう。
なのに、考えられない。
止めておこう、と私の中の誰かが言う。
きっとヴァイルはそういう相手ではないのだから。
そう自分を納得させようとして、それでも完全には消えないで燠のようにくすぶるこの感情は何だろう。
なんとはなしに、ユリリエに会いたくなった。
ユリリエなら、ノーティを前にして決して引きさがったりはしなかっただろう。
曲が止まる。踊り終えた人々が散ってゆく。
一つ、大きく息をついた。
唇を噛んで、前を向く。
許せない。ヴァイルを連れていったことが、ではない。
そう、私を侮辱したことが、そのことこそが、許せない。
躊躇いと苛立ちを天秤にかけるとそれは簡単に片方に傾いて、私に敗北を受け入れることなど出来るわけがなかった。
そう、戦いというものはいつも傍にある。
男と男の間に、男と女の間に、そして女と女の間に。
視界の端に、ノーティのドレスだろう、明るい色が鮮やかに映った。
強いてそちらに足を向ける。
ノーティが警戒するように私を睨んだが、それには構わず距離を詰め、反射的に身を引こうとしたヴァイルの首に手を回して強く引き寄せる。
唇が、触れた。温かい。
周囲で貴族たちがざわめくのが聞こえた。
噂話に恰好の餌を提供してやったことは不本意だったが、初めて与える口付けの味はこんな状況にも関わらず予想外に甘くて、毒の入った砂糖菓子のような白さで私の判断力を溶かしてゆく。
深く舌を絡ませ、慣れないことに息が保たなくなって顔を離す。
ノーティの方に顔を向けると、彼女はあまりのことに声も出ない様子でその場に固まっていた。
傷ついたようなその姿が私の口元に笑みを刻ませる。
ヴァイルに触れている胸の動悸が相手に伝わってしまいそうなほど速くて、この肌に熱と血を通わせるのは勝利の感慨だろうか。
そうに違いない。私は、勝ったのだ。

「……レハト」

自らの唇を指でなぞって、この距離でなければ聞こえないような声でヴァイルが呟いた。

「俺、諦めなくてもいいのかな」

謎掛けのような言葉に思わず顔を向けると、距離の近さに心臓が跳ねた。
おそらくは私の唾液で濡れているだろう指先を、ヴァイルは何か不可解な物でも見るように見つめていたが、ふと目線を上げ、私を正面から真っ直ぐに見据える。
体の芯が揺らいでしまいそうな、澄んだ、質量。
怖かった。
底まで見通そうとするかのような視線はどこか子供の頃の面影を残していて、それなのにあの頃とは全く違った強さで私を射抜く。
耐えられずに、思わず後ずさってしまう。
言葉の意味は私の理解を超えていた。諦める?
良いよ、とだけ答えてとにかくも私は身を翻し、疼く胸を押さえてヴァイルの視線から逃げた。
本来なら微笑を浮かべ、舞踏会の女王気取りでヴァイルと踊って見せてもいいはずなのに、なぜ逃げなければならないのか、こんなに焦ってしまうのか。
勝ったはずなのに、理不尽だと思った。


その夜はそのまま鹿車に乗って帰ったため、次にユリリエに会ったのは翌日のことだった。
出来ればしばらく城に顔を出したくない気分ではあったが、いかんせん領地に関する件で文官と会う用事があったので行かないわけにもいかず、散々侍従を困らせた末に諦めて支度をし、私は城へと向かった。
接見までまだ時間があったため、それまで暇を潰そうと広間の前を通りがかった時、中からの明るい声に呼びとめられた私は、果たしてそこにユリリエの姿を見出した。
手招きされてユリリエと共に卓に着くと、言う前からすぐに茶と菓子が用意される。
成人前から度々ユリリエとこうして遊んでいるものだから、既に城の侍従達に私の好みは覚えられてしまっていて、出される度に多少くすぐったいような、そんな気持ちになる。
ユリリエは挨拶もそこそこに、含み笑いなどしながら身を乗り出してきた。

「それで昨日のことですけれど、あの後大変でしたのよ? タナッセときたら自分のことでもないのに慌てて慌てて……面白かったですわ」

そうからかわれて、怒りよりも先に恥ずかしさで頬が熱くなるのが分かった。
ユリリエにとってはどうも余程面白い余興だったらしく、矢継ぎ早に質問攻めにされる。
だが話が逸れてヴァイルに及んだ時、ふとユリリエの言葉が途切れ、声の調子がほんのわずか潜められた。
内緒話をするかのように私へと顔を近づけて、猫のように目を細めて優しく笑う。

「でも、さすがに今度ばかりは本気でないとは言わせませんのよ。レハト様が遊び心であの子に手を出すはずありませんもの」

ユリリエは自身が恋の間を蝶のように飛び回る生き物のくせをして、ヴァイルが絡むと時折随分とずるくなる。
だが私とて、ノーティに負けたくなかったから敢えてあんなことをしただけで、実際のところ私にさえ本気かどうかなど分かるわけがない。
成人前だって、私は私の心が分からなかった。
ヴァイルと一緒にいたいのは確かだったが、篭りも近い年の終わり、私を殺すはずだった毒でヴァイルが倒れた時、あの時はっきりと理解したのだ。
城には私の存在を殺したいくらいに疎ましく思っている者がいて、だから、私が傍にいるとヴァイルが傷つくことになるのだと。
ヴァイルに好意を持っていたことは否定しない。
だが、だからこそ、彼のことは諦めて、誰とも結婚しないでいるのがいい、それが私の出した結論で、私の誠実さだった。
だが、私といるとヴァイルのためにならない、そう言うと、ユリリエはいつになく胡乱な顔つきでカップを置いた。
形の良い唇が、タナッセに相対している時に、何かの加減でほんの一瞬見せる表情にも似た、ふと名状しがたい何かに歪む。

「良いこと? レハト様、鈍感さは罪ですのよ」

言葉に潜むのは怒りなのか、寂しさなのか、それとも後悔か、あるいは諦念なのか。

「いつだって人を殺すのは剣でも毒でもなくて、ただ愛なのだと、私思いますの。中途半端な気持ちであの子につきまとうくらいなら、いっそはっきりさせておしまいになったほうがどれだけあの子のためになることやら」

諭すように言われ、私は何も言い返すことができずに黙りこむことしかできなかった。
確かに、正式に付き合った訳でもなく、さりとて明白に袂を分かつことを選んだわけでもない。
衆目の前で唇だけ交わして、その実もうほとんど話すこともない。
傍から見れば、不義理な関係に見えるかもしれなかった。
ユリリエが責めるのも無理はなかったが、もう一度あの目で見つめられたら、その時私は自分を保てるだろうか。
舞踏会でのヴァイルのあの視線、あの感触を思い出すと、ぞくりと背を震えが走った。
分からない。自分が分からない。
私はノーティに挑まれて、それを受けただけで、そうでなければならないのに。
私にとって何より怖いのは、冷静さを失って自分が自分でなくなることだった。
だが謝るにせよ、子供のころを引きずった半端な関係を清算するにせよ、ヴァイルに会わなければならない、何の理由があろうとも、それは確かだった。

「これ以上はきっと逃げられませんわよ」

有無を言わせぬ口調のユリリエに、私はこっそりとため息をついた。




文官との話はごく事務的に終わった。
いくつか質問され、答え、こちらからも質問して、書類を渡し、それをまた受け取ろうとして、相手がそれを渡す気がないのを知る。

「では、後はヴァイル様の承認を貰って、それで返しますから。すぐ済みますから一緒に行きましょう」

そう言うと、文官はさも当然のように書類を胸に抱えて歩きだした。
突然のことに私はうろたえたが、向こうはどうもヴァイルと私が親しいと思い込んでいるらしく、満足げな善人の顔で世間話など振ってくる。
急ぐから帰ると言えばいいのだということに気づいた時には、既に目的地についていた。
仕方なく、文官の後ろになるたけ小さくなってついてゆく。
ヴァイルは私を見ても特に態度を変えることはせず、淡々と用件を聞き、話し、私もまた多少拍子抜けしつつも出来得る限りの冷静を装ってそれに返した。
何も恐れる必要はなかったのだ。
侍従や衛士のいる前で、そんな話をする必然性などないのだから。
何もない。
息を吐くと、代わりにそこからほっとしたような感情が入り込んできた。
だが文官が報告を終え、それに伴って帰ろうとした時だった。

「レハトこの後付き合ってくれる? 俺時間空いてるんだ。ちょっとだけど」

ふと、未分化の頃のような気安さでヴァイルが言った。
あまりにも当り前の調子で告げられたその台詞に、こちらも思わず頷いてしまいそうになり、寸前でなんとか返事を飲み込む。
ヴァイルは書類に目を落としたまま顔を上げようとしない。

「きっと忙しいよね。いいよ、また誘うから」

忙しくない、一緒にいる。そう答えると、ヴァイルは小さく笑った。
わずかに目を伏せて、試すように。
時々こんな顔をするから、私は約束を破ることが出来ないのだ。
自問自答しながら、手を重ねて、誓いの言葉を唱えて、そして、無力さゆえにヴァイルを傷つけてしまう。
傷つけてしまうから、傍に寄ればもっと近くを求められてしまうから、距離を取っておかなければいけないのに。
二人きりになるのにどことなく気が引けて、とりあえず広間で食事にでもと誘うと、俺と一緒にいるの城の連中に見られたいならそれでも構わないけどね、とヴァイルは肩をすくめた。
正門で私の帰りを待っていた鹿車に今日は遅れると伝え、ヴァイルの仕事が終わるのを見計らって再度訪ねる。
ヴァイルの部屋まで案内されて、背後で扉が閉まると、急に不安になった。
広い部屋だ。
衛士が一礼して部屋の外へと出てゆくのは、ヴァイルがそう命じたせいだろう。
侍従も出て行かせたのか、何も出ない。
とにかく先に何か言わなければ、と思いつつも何から話していいか分からず、私は気まずい気持ちでただ露台から外を眺めていた。
湖はこの城のどこからでも見える。

「一回話したかった。なんかレハト俺のこと避けてるし。……約束、忘れてないよな」

傍に佇んでいるヴァイルが私の向こうにあるものを見通そうとするかのように目を細める。
勿論忘れていない、と返した。
約束は果たしている。フィアカント近くに別邸を作って、城に出入りして、一応貴族の一人として政務を手伝ってもいる。
ずっとそうするつもりだ。それがヴァイルとの約束であり、ユリリエもまた願ったことなのだから。
この生活がずっと続けばいい。偽りなく、そう思っている。

「そう、そうだよな。レハトはずっとここにいる。どこにも行かない」

確かめるようにヴァイルが言った。
不安なのかと尋ねてみる。
あの時、湖の上で誓った。私はそれを忘れていない。
前のように四六時中傍にいることはなくても、用がなければ話すこともないくらいの距離でも、私はこの城を出ていったりはしない。
それを信じては、くれないのか。

「分かってる。それ以上を望んじゃいけないってことも、知ってる。だから諦めようと、思ってた」

インクが水に滲むように、私の心に不可解が滲む。
違う。本当は分かっている。
そのくせ知らないふりをして、中途半端なまま流して、そして諦めさせようとしている。
ヴァイルの声に責める響きはなかった。
その代わりのように、手すりに載せていた私の手に自らのそれを重ねる。
少しでも私が動けば離れてしまいそうな柔らかさで、だが自分から離そうとは決してしない。

「でもレハトに命助けてもらって、それでレハトが女選んで、この前あんなことがあって……俺、自分で自分が分からなくなった。諦めるつもりだったのに、期待しちゃって、上手くいかなくて。そりゃ、単にノーティが気に入らなかったからやったってことくらい、さすがに分かってるよ。でもあの時のレハト震えてて、それで……我慢できなくなった。思い上がりかもしんないけど、でもちょっとくらいは、俺のことまだ気にしてくれてるのかなって」

肯定でもいい、否定でもいい、何か言わなければならないと思った。
だが答えは是であって、非であって、そのどちらでもあってどちらでもない。
近寄ることも離れることも出来ないまま、その場に立ち尽くしている、それが私だった。
見なければ、いけなかった。
恐る恐る見上げると、果たしてヴァイルと目が合った。
視線を逸らせなくて、互いが互いを覗き込むような形になる。
逃げることも壊れることも拒絶することも出来ずに、ただ受け入れ、同じように見つめ合う。

「俺、諦めたくない。諦めないから。好きだって何度でも言う。レハトが答えなくても、言うから」

その声には、何の迷いもない。
語り伝えられるすべての言葉を超えて。

「レハト。愛してる」

手を振り払おうとして、できなかった。
愛してるだなんて、もう何度も何度も聞いた言葉なのに、月並みな、手垢のついて干からびた符丁に過ぎないのに、どうしてだろう。
ヴァイルにそう囁かれて、胸の奥で凍りついたままだった何かが、砂のように砕けて壊れてゆく。
感情が熱と涙になって、こんな顔を見せたくはないのに、想いが溢れて、頬を伝うのを止められない。
気がつくと、恥じらいも何もなくヴァイルにとりすがって、私も同じだ、好きだ、愛していると言い続けていた。
言葉になりきれなかった涙が顔を汚し、互いの服に染みを作ってゆく。
人の心を渡り歩いて、愛を探して、勝たなければならないと思いこんで、だから自分だけは本気にはならない振りをして、そうやってずっと自分をさえ謀っていた。
もう私の負けでいい。私もヴァイルを諦めたくない。
遠いのは嫌だ。誰かに取られたら生きていけない。
傷つく時は一緒に傷つくから、死ぬ時は一緒に死んで見せるから、だから、一番近くで、手を繋いで、好きだと言って。
温かいものが背を撫でた。何度も、私を落ち着かせようとするかのように。
近過ぎてその表情をうかがうことはできなかったが、出来るなら笑っていてほしい、そう思った。
目を閉じて肩の力を抜くと、そっと顎に触れられ、そのまま持ち上げられる。
瞼越しに視界が翳り、髪が頬をくすぐる。
唇を重ねたまま、触れた手から伝わる幸福感に酔って、それ以上を求めてしまうのは、罪だろうか。





本を読んでも頭に入らないので難儀している。
ユリリエに会いに行くための鹿車の中でさえ、ふとすると意識はこれから会う親友への期待から彼と過ごした日へと持っていかれる。
理由は分かっている。分かっているが、私にはどうしようもない。
どうしようもないから、ユリリエに話さなければならない。
あの後すぐ、ヴァイルはごく短い手紙を寄越してきた。
初めから返事は決まっているのだから、考えても無駄だった。
たとえあまりに性急に過ぎるような気がしても、課せられる物の大きさに怯んでも、ヴァイルと共にいるためにはそうするしかない。
ヨアマキス別邸の庭は誰が育てたのか様々な花が咲き乱れていて、聞けば屋敷の主が年中絶やさないようにしているのだという。
少し先を歩いていたユリリエが立ち止まった。
彼女にも、何か予感めいたものがあるのだろう。
その背中に向かって、これからは前のように会えなくなるかもしれないことを告げる。
結婚してしまったら、御前試合で好みの衛士に目くばせすることも、舞踏会で若い貴族の品定めをすることも、こうして一人で好きな時に遊びに行くことも、もうない。

「……レハト様は愛を見つけられたのですね? 悔しいこと。勿論お相手は言わずとも分かっていますわ。言わせるほど野暮じゃありません」

私が答えなかったので、辺りにはしばらく沈黙が流れた。
鳥がどこかで鳴いているのだけが聞こえる。
ユリリエは泣いているだろうか、それとも私を嫌いになってしまうだろうか。
だが、不意にユリリエはぱっと振り返ると立てた人差し指を私に突きつけて笑った。
明るい色の髪がふわりと広がって背に落ちるのを、綺麗だと思った。

「もう本気ではないなんて、仰りませんわね」

私は素直に頷いた。優しい嘘も偽りの友情もユリリエの前では無意味だった。
本気というものが、触れられる度にこの身を内側から飴細工のように溶かしてゆくあの熱なら、私は、本気なのだろう。
そして愛というものが、全ての判断と利害とを超えて私をヴァイルへと向かわせるあのひた向きな敗北なら、これは……愛、なのだろう。
ユリリエの方をそっと窺うと、彼女は笑っていたが、その目の中には私の知らないどこか寂しげなものが宿っていた。
そんな顔を見たくなくて顔を背けても、脳裏のユリリエの姿までは消せなくて、彼女の言葉と眼差しとが焼き付いて離れない。
白い肌。長い髪。手をかけて作り込んだ美しさ。
自分に対しても他人に対しても時にありもしないほどの完璧さを求めてしまう、優雅で、そしてどこか生き急ぐような生き方。
同じ、夢を見ていた。ユリリエは同士だった。
友情は終わりはしない。私達は何も変わらない。
だが、私たちを結びつけていたのは愛を知らない無垢の感情だった。
砂糖菓子は切ないような後味を残して舌の上で溶けてしまい、もう私達は前と同じように繋がることはないだろう。
ヴァイルと過ごしたあの熱は私の体から未だ去らない。もう後戻りはできない。
そのことが、悲しかった。人はなぜ全てを選ぶことが出来ないのだろう。

「御前試合でレハト様が帰られた後、ノースタスと話した時のお話、しましたかしら。彼は私を諦めて剣に生きることにしたのだそう。私振られてしまいましたわね」

ふと、ユリリエがそう言った。
彼女が探してやまなかったもの、本当の愛そのものを見るかのように私を眩しげに見つめる。
頬にユリリエの指が触れた。
向かい合い、そっと引き寄せられると、互いの胸が柔らかく潰れて息苦しくなる。

「でも私、今日のレハト様を見て分かりましたの。私の求めるものは、確かにあるのだと。私は何にもない虚空に手を伸ばしていたのではないのだと」

私の髪を撫でながらユリリエが独り言のように言い、答える代りに私はユリリエの首に顔をうずめた。
男と男の間に、女と女の間に、そして男と女の間に、人は手をかざし、剣を取り、何を巡ってそんなに争うのか。
命か、名誉か、それとも愛か。
待っている。
いつか、この可憐さに強さを秘めた、賢いのに不器用な私の友人が、彼女の愛を見つけるまで、ずっとずっと待っている。
その時私とユリリエとは純潔の夢とはまた別の友情で再び絆されるだろう。
やがて私を解放したユリリエは、どこか清々しいような、晴れやかな表情をしていた。
これで、良かったのだ。
何の脈絡もなくそう思い、そのことに安息する。
彼女は壊れ物ではなくて、己の容姿を恃む浮かれた愚者でもなくて、私がいないと泣いてしまう夜中の子供でもなくて、今もただ、大事な私の友人だった。
確信に視線で頷き返すと、ユリリエがさりげなく目尻を拭いながら何か手紙のようなものを差し出した。

「こちら、ミーデロンから預かっておりましたの。レハト様に」

受け取ると、それは封筒にも入っていない、畳まれた紙片だった。
愛の告白にも恨み言にも似つかわしくない、ただ白いだけの便箋の上に青いインクが散っている。
――貴女がまた聞かせてくれと言ってくれたから。
そう前置きがされた下、目の裏で走り書きの字がふと滲み、あまりに月並みで、あまりに不出来なその詩句の愛しさに、私はただ泣いた。

空が、青かった。








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